ユージンスミス「智子の入浴」

大学の講義の最初に、環境ビジネスを考える上で最も重要なビジネスの功罪という視点から、公害問題の典型例、これで全てが語れるようなものをと考えた。
かなり悩んだ上で、ユージンスミスの著名な写真である「智子の入浴」を選んだ。



最初に、あの写真を見たのは何年前だろう。
まだ、環境問題に関わる前だったと思う。
水俣病のことを本で読んで関心を持った時に、出会った一枚の絵である。
10代半ばの水俣病の智子さんが母と一緒に入浴している写真である。
まだ若くこれからなのに、自分ひとりで入浴もできない、その子を大切にいつくしみながら入浴させる母親の優しい横顔。
忘れることができない写真であった。


今回、この写真を学生に紹介しようと考えて、いくつかの新しいことが分かった。


まず、最初に、この写真がもうほとんど入手困難になっているということが分かった。
それは、次のようなことらしい、ユージンスミス夫人が、智子の関係者と面談した折、「智子さんの写真は、多くの人たちに水俣病の本質を理解するのに役立ったでしょ。そろそろ家族に返してもらえないか」と相談を受けたことが原因らしい。
そこで夫人は、この写真の著作権を全て御家族にお渡ししたということらしい。
だから、最近出版された水俣病の写真集等にも掲載されていないとのことであった。


もうひとつ、これは、小生が知らなかっただけであるが、大変な衝撃を受ける事実がわかった。
写真家のユージンスミスさんは、既に他界されている。
そのことは知っていたが、その原因が、水俣病の集団交渉を写真撮影しているときに、関係者から暴行を受け、その傷がもとでの死亡であったということ。
しかも、スミスさんは、写真をとることを重視し、大きな騒動にしたくないとの理由から、傷害事件としての訴えを一切しなかったということ。
これはショックであった。
彼の写真がなければ、これほどまでに水俣病の悲劇が世界に知ることとはならなかったであろうことを考えると、非常に感慨深いものがある。