中小企業の課題 その2 〜契約管理〜

先だって中小企業に共通する課題、特に環境産業の廃棄物処理業を例に事業継承の問題を紹介した。
今回は、中小企業が事業を実施していく上で必要不可欠な契約行為に関することを紹介したいと思う。


ある事例を紹介する。
A社は、10年前に大手のプラントメーカーT社からある施設を購入した。
この施設の国内実績は非常に乏しく、躊躇をしたがT社の強い勧めもあって導入に踏み切った。
しかしながら、実績の乏しさから様々な問題が生じ、そのたびに部品の交換やメンテナンス等を設備を停止して実施して対応した。
そのために、設備の操業利益率は85%くらいまで高まってしまっていた。
それでも、T社のメンテナンススタッフの献身的な努力によって、なんとか設備の継続的操業は保たれていた。
ところが、あるときこのスタッフの転籍というT社の方針によって、後任の担当者が配置された。
この担当者もそれなりに対応したけれども今までの経験的な実績を継承することはできず、また前任の献身的なまでの努力には達してはいなかった。
なんとかやりくりしていた設備が、このためにあっという間に操業率が低下して、赤字操業に陥ってしまった。
東日本大震災等の影響もないわけではないが、これではどうにもならないということで、プラントメーカーとA社との話し合いがもたれた。


A社からの相談によって立ち会うように要請を受けたので、T社との間のメンテナンス契約等の一式を初めて見せてもらった。
その契約を見たときに愕然となった。
その理由は次の三つ。
先ず、T社はいつでもメンテナンス契約を解除できるという条項が含まれていた。
通常はあり得ないことであるがそれが明記されている。
このような契約書は見たことがない。どのような経緯でそうなったのかは、A社に確認したが誰もわからない。
第二に、メンテナンス契約は年間契約で固定契約となっているが、その内訳は全て部品代となっている。
実際には、様々な形で人件費等が発生する場図であるが、これが全て部品という名目となっている。
そのために、部品の交換リスクはT社が負うにしても、どこまでのメンテナンスが必要となるかの判断はほとんどT社の独断となっている。
また、追加的な工事が必要な場合には全て別途となっている。
第三に、T社は、第三者へのメンテナンス契約の移譲ができるという条項が付記されている。
これも通常はあり得ないことである。


どう考えてもこのメンテナンス契約は不平等なものであり、あまり見たことのないレベルのものである。
少なくとも、A社側がこの内容を吟味して、T社との間で交渉を行ったようには見受けられない。
全ての中小企業がそうであるとは言い難いが、これに類する話は今までにも経験していないわけではない。
お互いが善意によって対応を行い、たまたまうまくいっている時には何の問題もない。
しかし、問題が一度発生した場合には、泥沼化ししかも感情的なしこりが残るものになってしまう可能性が高い。
そのために、事前に約束事を契約書にまとめておくのであるが、このような基本ができていないあるいは管理を怠ることが、中小企業の課題の一つとして指摘しておく必要があろう。


本来であれば、時間をかけて契約書を吟味する、あるいは専門家等にレビューをさせて、そのコメントを基にして見直す。
さらには、交渉そのものを専門家に委ねる。
やり方は様々であり、全てを社内で行う必要もない。
しかし、その労力をかけられない企業が少なからず存在する。